昔の日記から。
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悪いことは重なる。これは経験則だ。
金を貸したまま連絡のとれない友人とようやく約束を取りつけたその日、女が夕飯を一緒に食うからその約束はキャンセルしろという。彼に断りの電話を入れ、家で女からの連絡を待っているが一向に電話はこない。数度のメールの返信もないまま約束の時間から三時間も過ぎた頃、酔った声で電話があり、友達とバーベキューの真っ最中だから無理を言うな、とかいうわけのわからない怒声を浴びる。あきらめて仕事を続けるが、ちっともはかどらない。二時間ほど苦しんでついにあきらめ、ろくに仕事もできない自分に対する無力感に打ちひしがれて眠りにつけば、泥酔した女が帰ってきて騒音を立て、あげく、蹴り起こされる。つけっぱなしのテレビからはよりによって「恋のから騒ぎ」だ。もう愚痴を言う体力もない。いつも思うけど、気軽に愚痴を口にできるというのも偉大な能力だ。
明日は会いたくもない女と昼飯を食うことになっていて、そんなどうでもいい用事のために朝、起きなくてはならない。けれど僕はいったん目が覚めてしまうともう一度眠るのがとても下手なのだ。キッチンで煙草をふかす。二本吸い終えたところで女がむっくりと起きてきて、換気扇がうるさい、とだけ苦情を言うと、そのまま便所に吐きに行ってしまう。誰のために換気扇をつけたのかさえ忘れてしまいそうだ。
そのまま明け方まで不眠は続き、ぼうっとネットを見れば、ある本に載った僕の文章に対するひどい感想を見つける。そして少し頭のおかしいインテリ気取りの女からメールがあり、「佐々木くんのこの間の発言はこことここがおかしいから謝ってほしい」云々。
オーケー、今日も僕の負けだ。君たちの華麗な連続技は本当に完璧だ。三〇年近くもこのゲームを続けてきて、君たちに勝てたためしがないよ。
ねえ、もうギブアップさせてくれないか? どうすればこの試合は終わりにできるんだったっけ?
試合を終わらせるためのいくつかの簡単な方法を思い描きながら、僕は布団の中でじっと目を開けている。試合を終わらせない限り、奴らの連続技は永遠に続く。悪いことは重なる。勝つことなんてできない。たぶん、そういうルールなのだ。
奴らの波状攻撃は次の朝からまた再開されるだろう。僕はそれを毛布にくるまりながらじっと待っているしかない。
夜が明ける。僕はじっと目を開けている。